ユーロ円相場が最近164円台に反落しました。これまで高値を更新していた相場に変化が見られています。この動きの背景には欧州経済の成長鈍化があるとの見方が強まっています。欧州中央銀行(ECB)は利下げを続ける一方、日本銀行は金融政策の正常化を進めており、両者の金融政策の方向性の違いが為替市場に影響を与えています。また、米国の関税政策も欧州経済に影を落としており、今後の相場動向に注目が集まっています。この記事では、ユーロ円相場の最新動向と今後の見通しについて、わかりやすく解説します。
ユーロ円相場の最新動向
ユーロ円相場は最近164円台に反落しました。これは欧州経済の鈍化や日欧の金融政策の違いなど、さまざまな要因が絡み合った結果です。では、具体的にどのような動きがあったのか見ていきましょう。
164円台への反落はなぜ起きたのか
ユーロ円相場が164円台に反落した主な理由は、欧州経済の成長鈍化に対する懸念が高まったことです。欧州中央銀行(ECB)は2025年に入ってから複数回の利下げを実施しており、これは欧州経済が思ったほど強くないことを示しています。
特に注目すべきは、ECBが3月に0.25ポイントの利下げを決定したことです。これは2024年9月以降、5会合連続の利下げとなりました。ECBはインフレ率が安定化に向かっていると判断し、金融政策の引き締め度合いをさらに緩和することが適切だと判断したのです。このような金融緩和策は通常、その通貨の価値を下げる方向に作用します。
直近の値動きを振り返る
ユーロ円相場の直近の動きを見ると、2025年4月時点では2008年以来の円安水準を記録していました。しかし、5月に入ってからは円高がやや優勢となり、円高トレンドが形成されるかどうかに注目が集まっています。
5月上旬には、ユーロ円は小陰線で終え、164円台を維持できずに小反落しました。ただし、下げエネルギーの強いものではなく、2月28日に付けた154.80円を基点として下値を切り上げる動きも見られています。また、50日移動平均線をサポートラインとして、じわじわと下値を切り上げる動きも確認されています。さらに、これまで低下基調だった200日線には底打ち感が見え始めており、相場の転換点を迎えている可能性があります。
欧州経済の現状と課題
欧州経済は現在、いくつかの課題に直面しています。経済成長の鈍化やインフレと金利政策の関係など、複雑な状況が続いています。これらの要因がユーロ円相場にどのような影響を与えているのか、詳しく見ていきましょう。
経済成長の鈍化が見られる指標
欧州経済の成長鈍化を示す指標はいくつか存在します。日本総合研究所の「欧州経済展望」によると、ユーロ圏の景気は減速する見込みとされています。特に米国の関税政策はドイツを中心とした製造業の不振をさらに悪化させ、景気全体を押し下げると予想されています。
また、企業の景況感も4月に総じて悪化しており、製造業・非製造業ともに好不況の分かれ目である50を下回る水準となっています。これは米国による関税発動前の駆け込み需要の反動で、新規受注や生産が低下したことが背景にあります。
個人消費についても、インフレ圧力の緩和を受けた実質所得の増加やECBによる利下げに下支えされるものの、景気の先行きへの警戒感から伸び悩む見通しとなっています。
インフレと金利政策の関係
欧州のインフレ率は低下傾向にあります。物価の騰勢は鈍化基調で、4月の消費者物価(総合)は前年比+2.2%と、前月から横ばいとなっています。サービス価格の前年比は上昇に転じたものの、全体としては落ち着いた動きを見せています。
このようなインフレの鎮静化を受けて、ECBは利下げを継続しています。ECBのエコノミストによれば、インフレ率は2025年に2.3%、2026年に1.9%、2027年に2.0%となり、エネルギー・食品を除いたコアインフレ率についても2025年は2.2%、2026年は2.0%、2027年は1.9%となると見通されています。これはユーロ圏の中期目標であるインフレ率2%に収束すべく順調に進んでいることを示しています。
ECBは4月の会合で利下げを実施し、インフレ率の低下やユーロ圏景気の減速への警戒から、2025年秋ごろまで追加利下げを継続すると予想されています。短期金利を変動させる預金ファシリティ金利は夏場にかけて2%を下回る見込みとなっています。
日本経済との比較
日本経済と欧州経済を比較することで、ユーロ円相場の動きをより深く理解することができます。両者の経済状況や金融政策の違いが、為替相場にどのように影響しているのかを見ていきましょう。
円の動きに影響する要因
円の動きに影響する主な要因としては、金利差、インフレ率、経済成長率、貿易収支、政治的安定性などが挙げられます。特に日本と他国との金利差は、為替相場に大きな影響を与えます。
日本の金利が他国よりも低い場合、投資家は高い金利を求めて資金を海外に移動させる傾向があります。これは「金利差取引」と呼ばれ、円安を促進する要因となります。しかし、最近の日本銀行の金融政策の変化により、この状況に変化が見られています。
また、日本の経済成長率が他国に比べて低い場合、投資家の関心は他国に向き、資金流出を招くことで円安を促進する一因となります。さらに、日本で低インフレ状態が続き、他国がインフレ抑制のために利上げを続けた場合、金利差がさらに拡大する可能性があります。低インフレ状態が続くと円が売られやすくなり、円安が進行します。
日銀の金融政策の方向性
日本銀行は2025年に入り、金融政策の正常化を進めています。1月の政策決定会合では0.25%の利上げが行われ、円金利は上昇しました。さらに2月には日銀審議委員からタカ派的な発言がされたことで、円金利は1.4%台まで急上昇しました。
その後も、2025年の春闘で高水準の賃上げが見込まれることから日銀による利上げ観測は続き、円金利は1.5%台で推移しています。この日銀の金融政策の転換は、円高要因として注目されています。
日本政府も急激な円安による中小企業や家計への負担を懸念しており、「必要なら為替市場に適切な対応を取る」との声明を出しています。こうした動きも、円高要因として市場に影響を与えています。
米国経済の影響
米国経済の動向もユーロ円相場に大きな影響を与えています。特にドル円相場との連動性や米国の関税政策がもたらす影響について理解することは、ユーロ円相場の今後を予測する上で重要です。
ドル円相場との連動性
ユーロ円相場はドル円相場と一定の連動性を持っています。これは、世界の主要通貨である米ドルの動向が他の通貨ペアにも影響を与えるためです。
2025年に入り、ドル円相場は日銀による利上げ観測の高まりや、米国トランプ政権による関税政策の不透明感などを受けた米長期金利の低下を背景に、円高・ドル安へ進展しています。この動きはユーロ円相場にも影響を与えており、円高・ユーロ安の要因となっています。
三井住友DSアセットマネジメントの予想によれば、2025年の日米金融政策は、FRB(米連邦準備制度理事会)が3月と9月に利下げし、日銀が1月と7月に利上げを実施するとみられています。また、2025年末の10年国債利回りは米国で4.3%、日本で1.4%と予想されており、利回り格差は縮小方向に向かうとされています。日米長期金利差が縮小していく過程では、一般にドル安・円高が進みやすいとされており、これがユーロ円相場にも影響を与える可能性があります。
米国の関税政策がもたらす影響
トランプ政権の関税政策は、欧州経済に大きな影響を与えています。米国による関税賦課を見越した駆け込み需要が一時的に欧州経済を押し上げた側面もありますが、今後は駆け込み需要の反動や米国の関税引き上げが製造業の下押し圧力となる見込みです。
さらに、先行き不透明感の高まりが企業の設備投資を抑制する可能性もあります。実際に、英国の月次GDPを見ると、サービス業の伸びが緩やかにとどまる中、米国による関税発動前の駆け込み需要を反映して、製造業の生産が一時的に増加しました。しかし、企業の景況感は4月に総じて悪化しており、製造業・非製造業ともに好不況の分かれ目である50を下回る水準となっています。
このような米国の関税政策の影響は、欧州経済の先行きに不透明感をもたらし、ユーロの下落要因となっています。また、国際的な緊張の高まりや貿易摩擦は企業による為替ヘッジ需要を高める要因となっており、為替相場に与える影響も大きくなっています。
今後のユーロ円相場の見通し
ユーロ円相場の今後の見通しについて、市場参加者の間ではさまざまな見方があります。上値の重い展開が続くのか、それとも161円の節目が重要な意味を持つのか、詳しく見ていきましょう。
上値の重い展開が続くか
ユーロ円相場は、欧州経済の減速懸念や欧州中央銀行(ECB)の利下げ継続などを背景に、上値の重い展開が続く可能性があります。
インヴァストNAVIの予想によれば、2025年のユーロ円の想定レンジは150.00から170.00とされています。また、マネクリの予想では、2025年のユーロ円は一時的に上昇しても52週移動平均線を大きく上回らない程度にとどまり、5年移動平均線乖離率が示す「上がり過ぎ」修正で一段安に向かうと予想されています。2025年の予想レンジは145~165円で想定されています。
一方で、外為オンラインの直近のレンジ予測では、ユーロ円は160.00~165.00とされています。このように、市場参加者の間では上値の重い展開が続くという見方が多いようです。
161円の節目が重要な理由
ユーロ円相場において、161円の水準は重要な節目となっています。これは過去のチャートパターンや市場参加者の心理的な節目として機能しているためです。
テクニカル分析の観点からは、161円付近には過去の高値や安値が集中しており、サポートラインやレジスタンスラインとして機能する可能性があります。また、フィボナッチ・リトレースメントなどのテクニカル指標でも重要な水準として認識されていることがあります。
市場参加者の心理的な側面からも、161円は「キリの良い数字」として注目されやすく、多くの注文が集中しやすい水準です。そのため、この水準を突破できるかどうかが、今後の相場の方向性を占う上で重要なポイントとなります。
投資家が注目すべきポイント
投資家がユーロ円相場を分析する際には、テクニカル分析から見る重要な価格帯や今週の重要経済指標などに注目することが重要です。これらのポイントを押さえることで、より的確な投資判断ができるようになります。
テクニカル分析から見る重要な価格帯
テクニカル分析の観点からは、ユーロ円相場において以下の価格帯が重要とされています。
まず、50日移動平均線と200日移動平均線の位置関係に注目です。ユーロ円は50日移動平均線をサポートラインとして、じわじわと下値を切り上げています。また、これまで低下基調だった200日線には底打ち感が見え始めています。これらの移動平均線がクロスする場面では、相場の転換点となる可能性があります。
また、過去の高値や安値も重要な価格帯となります。特に2月28日に付けた154.80円は、その後の相場の下値サポートとして機能しています。この水準を割り込むかどうかが、今後の相場の方向性を占う上で重要なポイントとなります。
さらに、フィボナッチ・リトレースメントなどのテクニカル指標も参考になります。過去の大きな値動きに基づいて引かれるこれらのラインは、相場の反転ポイントを予測する上で役立ちます。
今週の重要経済指標
ユーロ円相場に影響を与える重要な経済指標としては、以下のものが挙げられます。
PCEデフレーターは、米国のインフレターゲットの対象として利用されている指標です。経済見通し(プロジェクション)の際に、物価見通しの対象となっていることが特徴です。PCEデフレーターの過去データを見ても、その後の価格が上昇する場合が多く、一つの指標になることは間違いありません。
小売売上高も重要な指標です。ユーロ円は強い小売売上高などが一転して価格が変動することがあります。雇用悪化の豪ドルは弱い傾向にありますが、それでも相場に関係していることは事実です。
消費者信頼感指数は、その国の経済に対する消費者マインドをアンケート調査で指数化した指標です。一般的には個人消費やGDPとの相関性が高く、先行指標となります。ロシアによるウクライナ侵攻が影響し、製造業と消費者のセンチメントなどが総じて落ち込んだとされています。また、ロシアがガス供給を止める動きも見せたことから、リスクが引き続き、センチメントの重しになると考えられています。
ユーロ円取引の際の注意点
ユーロ円を取引する際には、相場の変動要因を理解することやリスク管理の重要性を認識することが大切です。これらのポイントを押さえることで、より安全な取引が可能になります。
相場の変動要因を理解する
ユーロ円相場の変動要因としては、以下のものが挙げられます。
欧州中央銀行(ECB)の政策金利決定方針は、ユーロ円相場に大きな影響を与えます。ECBが利下げを継続する場合、ユーロ安要因となります。一方、日本銀行の金融政策の行方も重要です。日銀が利上げを継続する場合、円高要因となります。
また、米国トランプ大統領の政策も注目されています。特に関税政策は欧州経済に大きな影響を与える可能性があります。さらに、日本の参議院選挙やドイツ議会の総選挙など、政治的なイベントも相場に影響を与える可能性があります。
これらの要因を総合的に理解し、相場の変動を予測することが重要です。ただし、為替相場は予測が難しいため、一つの要因だけに頼らず、複数の視点から分析することが大切です。
リスク管理の重要性
外貨取引には必ずリスクが伴います。そのため、リスク管理は非常に重要です。
外貨預金の主なリスクとしては、為替変動リスク、金利変動リスク、カントリーリスク、手数料リスクなどが挙げられます。為替変動リスクは、為替レートの変動によって外貨の価値が下がるリスクです。円高に振れると損失が発生します。金利変動リスクは、政策の見直しなどの影響で外貨の金利が下がるリスクです。金利が下がれば、受け取れる利息も少なくなります。
カントリーリスクは、政策変更や政権交代、紛争、テロといった政治的・経済的要因によって、その国の通貨価値が暴落するリスクです。手数料リスクは、為替手数料や送金手数料などが利益額を上回ることで損失が発生するリスクです。手数料の仕組みは金融機関によって異なるため、事前に確認・比較しておく必要があります。
これらのリスクを管理するためには、余裕資金で運用する、複数の通貨を運用することでリスクを分散する、積立方式を検討するなどの方法があります。特に分散投資は、逆の値動きをする金融商品を選ぶことで、リスクを抑えることができます。
まとめ:ユーロ円相場の今後の展望
ユーロ円相場は現在、欧州経済の鈍化や日欧の金融政策の違いなどを背景に、164円台に反落しています。欧州中央銀行は利下げを継続する一方、日本銀行は金融政策の正常化を進めており、この政策の方向性の違いが相場に影響を与えています。また、米国の関税政策も欧州経済に影を落としており、今後の相場動向に不透明感をもたらしています。投資家は、テクニカル分析や経済指標に注目しながら、リスク管理を徹底することが重要です。2025年のユーロ円相場は、上値の重い展開が続く可能性が高いとの見方が多いようです。
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