スイスフランが高止まりする理由|CHF/JPYの動向を追う

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スイスフランと日本円の為替相場において、スイスフランの高止まりが続いています。2025年5月現在、スイスフラン/円(CHF/JPY)は174円台で推移しており、多くの投資家や企業が注目しています。なぜスイスフランはこれほど強い通貨なのでしょうか。また、日本円との関係はどうなっているのでしょうか。

スイスフランは「安全通貨」として世界的に認知されていますが、その背景には政治的安定性や健全な財政状況があります。一方、日本円も以前は安全通貨として知られていましたが、近年はその地位が揺らいでいます。

この記事では、スイスフランが高止まりする理由と、CHF/JPYの今後の動向について、わかりやすく解説していきます。

目次

スイスフランはなぜこんなに高いの?

スイスフランと日本円の現在の為替状況

2025年5月15日現在、スイスフラン/円の為替レートは173円97銭前後で推移しています。これは前日から1円36銭の円高・フラン安となっていますが、長期的に見るとスイスフランは円に対して高い水準を維持しています。過去5年間を振り返ると、スイスフランは円に対して大幅に価値を上げてきました。

2020年から2025年の間に、スイスフラン/円は大きく上昇し、2024年には一時180円台まで上昇しました。これは史上最高値を更新する動きでした。その後やや下落したものの、依然として高水準で推移しています。

「安全通貨」として選ばれるスイスフラン

スイスフランが「安全通貨」として選ばれる理由は、スイスの政治的・経済的安定性にあります。世界情勢が不安定になると、投資家はリスクを避けるために安全な資産を求めます。その際、スイスフランは常に選ばれる通貨の一つです。

特に地政学的リスクが高まる時期には、スイスフランへの資金流入が増加します。これは、スイスが長年にわたって政治的に中立を保ち、国際紛争に巻き込まれにくい国として認識されているためです。また、スイスの銀行システムの信頼性も、スイスフランが安全通貨として選ばれる大きな要因となっています。

2025年5月現在の為替レート推移

2025年に入ってからのスイスフラン/円の動きを見ると、1月には172円台、2月には168円台、3月には168円台と推移してきました。4月に入ると再び上昇し、170円台を回復しています。5月現在は173円台で推移しており、年初からやや上昇傾向にあります。

この間、スイス国立銀行(SNB)は2025年3月に政策金利を0.25%に引き下げましたが、それにもかかわらずスイスフランは底堅さを維持しています。これは、金利だけでなく、通貨の安全性や国の経済基盤の強さが評価されている証拠と言えるでしょう。

スイスフランが強い通貨である理由

永世中立国としての政治的安定性

スイスは1815年のウィーン会議で永世中立国として認められて以来、国際紛争に直接関与しない政策を貫いてきました。この中立政策により、スイスは二度の世界大戦を含む多くの国際紛争から距離を置くことができました。

この政治的安定性は、スイスフランの価値を支える重要な要素となっています。投資家は、政治的混乱やリスクを避けるために、安定した国の通貨を求める傾向があります。スイスの政治システムは直接民主制を採用しており、国民投票によって多くの重要な決定が行われるため、急激な政策変更が起こりにくい構造になっています。

健全な財政状況とインフレの低さ

スイスは長年にわたって健全な財政運営を行ってきました。政府債務の対GDP比率は他の先進国と比較して低く、財政規律が保たれています。また、インフレ率も非常に低い水準で推移しています。

2025年5月現在、スイスのインフレ率は0.3%程度と非常に低い水準にあります。SNBはインフレ予測について、2025年は0.4%、2026年と2027年は0.8%と予測しており、物価の安定が続くと見込んでいます。このような低インフレ環境は、通貨の購買力を維持し、スイスフランの価値を支える要因となっています。

高付加価値産業が支える経済基盤

スイス経済は、時計、製薬、金融サービスなどの高付加価値産業によって支えられています。これらの産業は高い利益率を誇り、国際競争力が非常に強いのが特徴です。

特に金融業は、スイスの主要産業の一つであり、世界中から富裕層の資産を集めています。スイスは世界最大の金精製国でもあり、金価格の上昇はスイスフランの価値上昇にも寄与しています。これらの産業基盤の強さが、スイスフランの価値を支える重要な要素となっているのです。

日本円との比較で見えるスイスフランの強さ

金利差が生み出す通貨価値の違い

かつては日本円とスイスフランは共に「安全通貨」として知られていましたが、現在では両者の間に大きな差が生じています。その一因として、金利差の影響が挙げられます。

2025年5月現在、日本の政策金利は0.5%程度、スイスの政策金利は0.25%程度と、実は日本の方がわずかに高い状況です。しかし、これだけでは説明できないほど、スイスフランは円に対して強い値動きを示しています。2000年には58円程度だったスイスフラン/円は、2025年には170円台まで上昇し、約3倍になっています。

両国の中央銀行の政策の違い

日本銀行とスイス国立銀行(SNB)の金融政策には大きな違いがあります。SNBは必要に応じて為替市場に積極的に介入する姿勢を明確にしています。特に、スイスフランが過度に下落する場合には、フラン買い・外貨売りの介入を行う方針を示しています。

一方、日本銀行は2024年3月にマイナス金利政策を終了し、2024年7月と2025年1月に追加利上げを行い、現在は0.5%の政策金利を維持しています。しかし、円の価値を直接的に支えるための為替介入については、SNBほど積極的ではありません。

貿易収支の格差が為替に与える影響

スイスと日本の貿易収支にも大きな違いがあります。スイスは長年にわたって貿易黒字を維持している一方、日本は近年、貿易赤字に転落しています。

貿易黒字は、その国の通貨への需要を高める要因となります。スイスの輸出産業は高付加価値製品が中心であり、価格競争力よりも品質や技術力で勝負しているため、為替レートの変動に対する耐性が高いという特徴があります。一方、日本の輸出産業は価格競争力も重要な要素であり、円高は輸出企業の収益を圧迫する要因となっています。

世界情勢がスイスフランを押し上げる仕組み

地政学的リスクと「逃避先」としてのスイスフラン

世界各地で地政学的リスクが高まると、投資家はリスク回避の姿勢を強め、安全資産への資金シフトが起こります。スイスフランは、このような「リスクオフ」の局面で選ばれる代表的な通貨の一つです。

2022年のロシアによるウクライナ侵攻や、中東情勢の緊張など、国際的な紛争やリスクが高まる度に、スイスフランは買われる傾向があります。これは、スイスの政治的中立性と安定した金融システムが、危機時の「逃避先」として信頼されているためです。

ユーロ圏の不安定さとスイスの独立性

スイスはEU(欧州連合)に加盟していませんが、地理的にはヨーロッパの中心に位置しています。ユーロ圏で経済的・政治的な問題が発生すると、投資家はユーロを売ってスイスフランを買う動きが強まります。

特に、ユーロ圏の債務問題や政治的不安定さが高まる時期には、スイスフランは「安全な避難所」として機能します。スイスはEUに加盟していないため、ユーロ圏の問題から一定の独立性を保っており、この独立性がスイスフランの魅力を高めています。

投資マネーが安全資産を求める動き

世界的な金融市場の不安定さが高まると、投資家は株式などのリスク資産から、債券や金、そして安全通貨へと資金をシフトさせます。スイスフランは、このような安全資産の一つとして位置づけられています。

また、スイスは世界最大の金精製国であり、金価格とスイスフランには一定の相関関係があります。金価格が上昇する局面では、スイスフランも買われる傾向があります。2025年に入ってからも、金価格は高水準で推移しており、これがスイスフランの底堅さを支える一因となっています。

スイスフランと日本円の金利政策の違い

スイス国立銀行(SNB)の金融政策の変遷

スイス国立銀行(SNB)は、2022年から2023年にかけて、インフレ対策として政策金利を引き上げてきました。しかし、2024年に入ると、インフレの落ち着きやスイスフラン高に対応するため、利下げに転じました。

2024年3月、6月、9月に0.25%ずつの連続利下げを行い、さらに2024年12月には0.50%の利下げを実施しました。そして2025年3月にも0.25%の利下げを行い、現在の政策金利は0.25%となっています。SNBは、必要であればマイナス金利の復活も視野に入れていると表明しており、2025年中にさらなる利下げが行われる可能性もあります。

日本銀行の金融政策との比較

一方、日本銀行は2024年3月にマイナス金利政策を終了し、政策金利を0~0.1%に引き上げました。その後、2024年7月には0.25%、2025年1月には0.5%へと段階的に利上げを行いました。

現在、日本銀行の政策金利(0.5%)はSNBの政策金利(0.25%)よりも高い状況です。しかし、この金利差にもかかわらず、スイスフラン/円は高水準を維持しています。これは、金利だけでなく、通貨の信頼性や安全性、国の経済基盤の強さなど、他の要因も為替レートに大きな影響を与えていることを示しています。

金利差が為替に与える影響

一般的に、金利の高い通貨は低い通貨に対して強くなる傾向があります。これは、投資家が高い金利を求めて資金を移動させるためです。しかし、スイスフランと円の関係では、この原則が必ずしも当てはまっていません。

現在、日本の政策金利はスイスよりも高いにもかかわらず、スイスフランは円に対して強い状態が続いています。これは、金利以外の要因、特に通貨の安全性や国の経済基盤の強さ、中央銀行の政策スタンスなどが、より大きな影響を与えていることを示しています。

CHF/JPYの今後の見通し

市場予測から見る2025年後半の動向

市場予測によると、2025年後半のスイスフラン/円は、現在の水準からやや上昇する可能性があります。2025年5月から12月にかけて、スイスフラン/円は162円から176円程度の範囲で推移すると予想されています。

特に2025年11月には175円台、12月には176円台まで上昇する可能性があるという予測もあります。これは、世界経済の不確実性や地政学的リスクが継続する中で、スイスフランの「安全通貨」としての地位が維持されるという見方に基づいています。

スイスフラン/円の予想レンジ

2025年のスイスフラン/円の予想レンジは、以下のように推移すると見られています。

始値最低値最高値月末値変動率
5月164.06160.04164.92162.48-1.0%
6月162.48162.48167.54165.06+1.6%
7月165.06165.06170.96168.43+2.0%
8月168.43164.48169.48166.98-0.9%
9月166.98165.99171.05168.52+0.9%
10月168.52168.03173.15170.59+1.2%
11月170.59170.59178.35175.71+3.0%
12月175.71173.58178.86176.22+0.3%

この予想によると、2025年後半は全体的に上昇傾向が続き、年末に向けて175円台まで上昇する可能性があります。ただし、月ごとに上下の変動があり、特に8月には一時的な下落も予想されています。

為替変動に影響を与える要因

スイスフラン/円の為替レートに影響を与える主な要因としては、以下のものが挙げられます。

まず、両国の中央銀行の金融政策が重要です。SNBがさらなる利下げを行った場合、スイスフランは下落圧力を受ける可能性があります。一方、日本銀行が追加利上げを行えば、円高要因となるでしょう。

また、世界的な地政学的リスクの高まりは、安全通貨であるスイスフランの上昇要因となります。特に、ヨーロッパや中東での紛争や緊張の高まりは、スイスフランへの資金流入を促す可能性があります。

さらに、世界経済の動向も重要な要因です。経済の不確実性が高まれば、リスク回避の動きが強まり、スイスフランは買われる傾向があります。逆に、世界経済が安定し、リスク選好の姿勢が強まれば、スイスフランは売られる可能性があります。

スイスフランの高止まりは続くのか

スイス国立銀行の今後の政策方針

スイス国立銀行(SNB)は、インフレ圧力の低下を受けて、2024年から利下げサイクルに入っています。2025年3月の金融政策決定会合では、政策金利を0.25%に引き下げました。SNBは、インフレ予測について、2025年は0.4%、2026年と2027年は0.8%と予想しており、物価の安定が続くと見込んでいます。

SNBは、必要であればマイナス金利の復活も視野に入れていると表明しています。これは、スイスフランの過度な上昇を抑制するための手段の一つと考えられます。ただし、SNBは為替市場への介入も政策手段として保持しており、必要に応じてスイスフランの価値を調整する可能性があります。

日本銀行の金融政策の行方

日本銀行は2024年3月にマイナス金利政策を終了し、その後段階的に利上げを行ってきました。2025年1月には政策金利を0.5%に引き上げ、現在はこの水準を維持しています。

日本銀行の植田和男総裁は、経済・物価の先行きに慎重な姿勢を示しており、追加利上げのタイミングについては慎重に判断する方針です。市場では、日本銀行の次の追加利上げは2026年1月頃と予想されています。ただし、この見通しは経済情勢や物価動向によって変わる可能性があります。

世界経済の不確実性とスイスフランの関係

世界経済の不確実性は、スイスフランの価値に大きな影響を与えます。地政学的リスクや金融市場の不安定さが高まると、投資家はリスク回避の姿勢を強め、安全資産であるスイスフランへの需要が高まります。

2025年の世界経済は、米国の関税政策や地政学的リスク、インフレ動向など、様々な不確実性に直面しています。これらの要因が、スイスフランの高止まりを支える可能性があります。特に、米国と主要貿易相手国との関税交渉の行方は、世界経済と為替市場に大きな影響を与える可能性があります。

まとめ:スイスフランと日本円の関係を理解する

両通貨の特性と今後の動向

スイスフランは「安全通貨」としての地位を維持し、日本円に対して高い水準で推移しています。この背景には、スイスの政治的安定性、健全な財政状況、高付加価値産業による経済基盤の強さがあります。

一方、日本円は以前は安全通貨として知られていましたが、近年はその地位が揺らいでいます。日本の貿易赤字や財政状況が、円の価値に影響を与えている可能性があります。

為替変動に備えるポイント

スイスフラン/円の為替レートは、今後も様々な要因によって変動する可能性があります。両国の中央銀行の金融政策、世界経済の動向、地政学的リスクなどが、為替レートに影響を与える主な要因となるでしょう。

為替変動に備えるためには、これらの要因を注視し、長期的な視点で為替リスクを管理することが重要です。特に、企業や投資家は、為替ヘッジや分散投資などの手段を活用して、為替変動のリスクを軽減することを検討すべきでしょう。


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